十五話「祭りのじかん。」
「…お腹スイタ…」
アシュタルの服の裾を掴み、うな垂れて街中歩くステア達一行。
「…確かに…十分と言って良いほど、朝から相当時間が経っているな…日も…随分高い…」
「そう言えば…朝以降何も食ってないしなぁ…」
「何カ食ベタイ…」
「ステアさん…夕食までかなり時間ありますし…かと言ってお昼には遅い時間ですから…これ、どうです?」
そう言って、コケットがリュックの中から取り出したのは色とりどりの、大きさがビー球大程度もある飴玉。
「わぁ…w」
嬉しそうに顔を輝かせるステアに、コケットはその中から三つ、色の違う飴玉をステアに手渡した。
さっそく紙包みを解くと、口に頬張るステア。
「あと…はい、これもどうぞ。」
ステアに、もう一個、掌に乗る程度の紙包みを渡すコケット。
ステアがその紙包みを開くと、入っていたのは数枚のクッキー。
「アリガト。コケット。」
ステアはその中の一枚を取ると、足元で尻尾を振っていたアルプに分けた。
※
夕刻……
人の出が多くなりだした頃、宿の外に設置されたテーブルに座り、もぐもぐと出された料理をほおばるステアとアルプ。
「んーvシアワセっ♪」
「ぎゅー♪」
一緒に料理を食べていた、ツバキがふと気付いた。
「おぃ…アシュタルはどこに行った?」
「…そう言えば…そうだな。」
「あれ?皆さん、フィナーレを見に行かないんですか?」
どこかに行きかけていたのだろう。目の色も髪の色もブラウンの女の子がツバキ達に声を掛けた。
「フィなーレ?」
興味を持ったステアが、女の子の方を振り向いた。
「はい。あ。自己紹介が遅れました。私はマナミと申します。この街では5年に一度、役払いのお祭りをするんです。それで、今日がちょうど最終日で、村から選ばれた女性4名と、男性一名が街の安全を願って踊るんですよー。そろそろ始まると思うので、見に行ってみますか?」
「行くー♪」
※
「あぁ。ちょうど良かった…始まる寸前だったみたいです!」
ステアとツバキ、リーフにガルムとコケットを連れ、マナミは街の広場へと案内をした。
ちょうど、フィナーレの踊りが始まったようで、二対の剣を持った女性と、他の女性に連れられた金髪、長身の女性が出てきたところだった。
「あの、今出てきた女性がこれから剣舞と言うのを舞うんです。あ。中身は男の人なんですけどね。私、毎年コレが見たくてこの村に足を運んでいるんです。でも、前の年より今年は身長の高い男性だなぁ…」
「男が踊っているのか?」
「はい。真ん中の男性が…」
そう言って、真ん中に立った男性を指差し、マナミはツバキに説明をする。
舞が始まり、暫くその舞を見ていたリーフがふと口を開いた。
「……アシュタルじゃないのか…あの、舞子は……」
「え?」
その発言に、皆は舞を踊る、アシュタルらしき人物を見た。
「……アシュタルさんって…どんな人なんですか?」
「金髪に碧眼。長身。」
踊りに全く興味がなさそうなツバキが視線を逸らして簡潔にアシュタルの特徴を言う。
「大体、俺より少し高いくらいだ。」
まぁ、よくよく見れば、今踊っている女性の格好をした男性も金髪、碧眼ではある。
「まー…あんなに長身で、大剣を背負ってりゃ一発で分る。宿屋にでも居るんじゃないのか…?」
ステアがじっと剣舞を舞う踊り子を見ていると、一瞬、その踊り子と視線があった。
ふわり。と踊り子が微笑む。
「あ…」
ほんの一瞬だけ、自分と視線が合い、微笑んだ相手の表情に、ステアはふと思う。
『何カ…アシュタルミタイ…』
『何か…あの、踊り子さん…どこかで見た事があるような…』
ステアとは反対にそう、不思議に思うコケットであった。
「…ツバキ、貴様はさっきから何を見ているのだ…?」
ふい。とツバキを見上げたリーフ。
「ん?青いごんばこに入った狼。」
その言葉に、リーフは溜息をつくと、視線を踊りのほうへと戻し、呟いた。
「……アホクサ……」
※
祭りも終り、皆が宿に戻ってもアシュタルの姿はなく、どうしたものかと悩んでいるうちに朝が開けた。
「…まぁ…とにかくはぐれたところまで戻ってみましょうや…」
大きな欠伸をしながら、ツバキが言った。
あの後、結局アシュタルを見つける事が出来ず、一行は取った宿屋で一夜を明かした。
まだ、朝もやのかかる町を、入り口付近まで戻る一行。
「ぎーっ!」
てこてこと皆の先頭を歩いていたアルプが何かに気付いたのか、駆け出す。
「あ。アシュタル。」
アルプの後を追いかけていたステアも入り口付近に立っていたアシュタルに気が付いた。
「何処行ッテタノー?昨日、凄ク綺麗な人ガ踊ッテタノにー。」
その言葉にアシュタルの顔が朱に染まる。
「…風邪?アシュタル?」
「い…いや…別に熱は無いんだが…」
赤面している自分の顔を見られないように、アシュタルはそっぽを向いた。
※
いつもとは違い、仲間達よりも後ろのほうを歩くアシュタル。
それを見たアルプが歩む速度を緩め、アシュタルが来るまで待った。
そして、アシュタルが自分に追いつくと、一声鳴いた。
「ぎー?ぎゅーぅ?」
何事かを聞いたアルプに、アシュタルは口元を抑えると、ボソリと呟いた。
「…頼むから内緒にしていてくれ…当分言えそうに無い…」